インスタレーション
「ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~」

インスタレーション
「ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~」

2025年5月8日〜6月23日
大阪梅田ツインタワーズ・ノース 1階 コンコース/阪急うめだ本店 コンコースウィンドー
大阪

作家:宮田彩加、廣田 碧
クライアント:阪急阪神百貨店、阪急阪神不動産
コンセプト、ディレクション:コダマシーン(金澤 韻+増井辰一郎)
テキスト:金澤 韻
ウィンドー背景描画協力:榎並爽野
撮影:松見拓也

  • アートコンサルティング
  • キュレーション|企画
  • 執筆

国内随一のショーウインドウとコンコースにて万博に合わせたテーマでインスタレーションを展開

阪急コンコースウィンドー・大阪梅田ツインタワーズ・ノース1階にある、「コンコース」。その1日30万人が行き交う「コンコース」にて、二つの企業が初めての協働に挑んだ展示が行われました。
EXPO2025 大阪・関西万博の開催に合わせ、「驚異の部屋」や博物館、博覧会など、“集めて” “見たい” 私たち人間の好奇心の系譜をテーマに、コダマシーンが大規模なインスタレーションを企画・ディレクションしました。また、開催時期は大阪の街を巡りながらアートやデザインに出会う周遊型エリアイベント『Osaka Art & Design 2025(以下、OAD2025)』のプログラムにもなりました。刺繍を用いるアーティスト・宮田彩加の作品に現れる動植物を起点にグラフィックデザイナー・看板屋 廣田碧がデザインとイラストレーションで協力。巨大な博物図鑑や騙し絵の手法を使ったコレクションルームのセットを大阪梅田に出現させました。

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コダマシーンがコンセプトとディレクションを担当した《ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~》は、現代美術家・宮田彩加の作品を起点に、看板屋/デザイナーの廣田碧が空間デザインと描画を行い、「未知」への知的好奇心が駆動する私たちの世界を表現したインスタレーションです。

人類は、いつも、珍しいものや新しいものに魅惑されてきました。15世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパでは王侯貴族たちが珍しい物品を「驚異の部屋」と呼ばれるコレクションルームに収め、そして鑑賞しました。19世紀には万国博覧会が始まります。1878年の第3回パリ万博には1,600万を超える人々が来場し、ミシンや蓄音機といった当時の最新技術を観覧しました。「驚異の部屋」のコレクションや博覧会で披露された美術や技術は、科学・芸術研究の礎となり、その流れは現代の博物館施設にも受け継がれていきます。

《ニュー博物誌~好奇心の遺伝子~》では、百貨店のウィンドウがさまざまな動植物の息づく空間に変化し、巨大な博物図鑑がコンコースに浮かび上がります。宮田彩加が手がけた刺繍作品には、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルの生物画や、古今東西の布に描かれた動植物が引用され、ミシンの誤作動を巧みに利用した偶発的な形状が、自然界に潜む、思いもよらない展開の可能性をほのめかしています。

廣田碧は、宮田作品をはじめとする多様な品々を一つの世界観のもとに統合します。ウィンドウ内部に用いられたのは、深い奥行きの錯視効果をもつセットです。廣田は、この効果を通して絵の中と現実世界を架橋し、目の前にある空間を超えた世界を、観る者に想像させます。

未来を予感させる最新技術もプロセスの一部として採用されました。コンコースの図鑑にはAIが生成した「数百年前の動植物図鑑」の新しいイメージを取り込みました。集積された知識のコレクションをもとに新しい画像を作り出す生成AIの動作は、過去を受け継ぎつつ、まだ見ぬ未来へと向かうわたしたちの姿を思わせます。

過去・現在・未来、それぞれの時代にひそむ「未知」への憧れと好奇心が息づくこのインスタレーションは、人間の尽きることのない想像力と探究心に、静かに、しかし力強く呼びかけます。

宮田彩加(現代美術家)

京都生まれ。2012年、京都造形芸術大学大学院 芸術表現専攻 修士課程 染織領域修了。大学で染織を専攻したことがきっかけで、染めた布に奥行きやボリュームを出すために手刺繍・ミシン刺繍によるオリジナルテクニックを使った制作を始める。ミシンという世の中に溢れた媒体に意図的にバグを起こすことで現れる糸の層「WARP」シリーズや、支持体の布を無くし、糸だけで構築させていく「Knots」シリーズなど、「エラー:失敗の行為によって新たな価値観が生まれる」を根本にしたテクニックと、生物の形態や、物事の発生や進化の在り方を呼応させた作品作りをしている、唯一無二の現代美術家として活躍している。主な展覧会に2024年「札幌国際芸術祭」(北海道立近代美術館)、2022年個展「裏腹のいとはよすが」(岐阜現代美術館)。

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廣田 碧(看板屋/グラフィックデザイナー)

デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして活動後、2015年から家業である看板屋「看太郎」の2代目を継ぐ。店舗やブランド、イベント、展示などのロゴ・VIのデザインを手がけながら、看板を主軸に、手描きのレタリングやドローイング、グラフィックといった平面のデザインを、さまざまな素材・媒体を用いて空間へ展開することを試み、デザイン→製作→施工までの工程を一貫して担う。看板が持つメディアとしての可能性を探求するための自主企画として『超看板』を2017年(大阪・ミミヤマミシン)と2020年(東京・村世界)に開催。現在は衰退しつつある看板のペイント技術の普及も目指している。

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「咲き誇る花々の植物園」

ポピーの遺伝子は無数のポピーを生み出しますが、ごく一部のDNA配列や環境の違いが一つ一つのポピーの違いを生みます。長い時間をかけて、その違いはやがて別の種類へと至ることもあるそうです。咲き誇る花々の植物園で、わたしとあなたのあいだに横たわる、過去のたくさんの命のかかわりと、遠い未来の(あるかもしれない)進化を夢想します。

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「胞子の飛び交う地下室」

植物の仲間と思われがちなキノコ。ゲノム解析の結果、キノコが属する菌類は早い段階で植物と分かれていて、むしろ動物のほうに近いことがわかりました。光合成ではなく、有機物を分解して栄養を取る、つまり他の生き物から養分をもらう点も動物と似ています。胞子の飛び交う地下室で、わたしたちの遠い祖先とキノコの祖先が同じだった頃を想像します。

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「トカゲたちが隠れた回廊」

わたしたちはみんな(人間も動物も植物も菌類も貝も石も石油も海も空気も)水素や炭素、酸素など、限られた数の元素がくっついてできたものです。生き物と生き物以外は、物質的には似たもの同士。動いている時間が短いか長いか、ものすごく長くて変化が見えないか…の違いかもしれません。トカゲたちが隠れた回廊で、いのちの不思議を思います。

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「クラゲが浮遊する宇宙の研究室」

地球上の生命は、落雷で生まれたという説や、深海にある熱水噴出口に発生したという説、宇宙から隕石などで飛来した説などがあります。いずれの説も最初の生命体はごくごく小さい存在だったと考えています。地球ではその後、さまざまな生命体が繁栄しましたが、他の星はどうなのでしょうか。クラゲが浮遊する宇宙の研究室で、仲間の姿を思い描きます。

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「おしゃべりな鳥たちの温室」

いくつかの種類の鳥たちが、わたしたちと同じように単語をつらねて文にし、仲間とやりとりしていることがわかってきました。人間の言葉をまねるオウムなどの鳥も、以前は音まねだけと言われていましたが、なんらかの意図を伝えようとしている可能性があるようです。おしゃべりな鳥たちの温室で、たくさんの暗号が満ちるこの豊かな世界に思いを馳せます。